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13_1 同棲しよ 樹side

last update Last Updated: 2025-09-07 07:01:44

ここ最近ずっと、体調が思わしくないと思っていた。それでも寝て起きれば仕事に行けるくらいの元気はあるし、まあ大丈夫だろうとだましだまし仕事をしていた。ちょうど忙しくもあったから休むわけにもいかないし、仕事に集中していればどうにでもなったのだ。

姫乃さんと食べていた夕飯も、別々になった。俺の忙しさに姫乃さんを付き合わせるわけにはいかないし、姫乃さんも忙しそうだったから負担をかけたくないと思ったのだ。

一緒に出勤しているから、朝だけはかろうじて顔を見ることが出来た。綺麗で可愛い姫乃さんは、「おはよう」とにっこり微笑む。その顔を見るだけで、一日頑張れる気がした。

仕事中は全く関わらない。姫乃さんも業務内容が変わり、責任ある立場に就いたみたいだ。頑張っている姫乃さんに負けないように、俺も新しいプロジェクト業務をこなす日々だった。

そんなある日、帰りの最寄り駅でバッタリ姫乃さんと出会った。

「樹くん!」

「姫乃さんも同じ電車だったんだ」

「ね、びっくり」

「一緒に帰りましょう」

姫乃さんと手を繋ぐと、姫乃さんは嬉しそうにふわっと笑う。でも、絶対に俺の方が嬉しいと感じている。毎朝顔を合わせているのに、帰りに会えるのがこんなにも嬉しいだなんて。それに、久しぶりに姫乃さんに触れた気がする。柔らかな手が心地良い。
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  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   13_5 同棲しよ 樹side

    「最近ずっと樹くんとご飯食べてなかったじゃない。寂しいなって気づいたの。それに、体調悪いときは一緒にいた方がいいなって、すごく思ったの」「そこは迷惑かけちゃったけど」「ううん。たまには私のこと頼ってほしい。頼りないかもだけど、私、樹くんの彼女でしょ」ニコッと微笑む姫乃さんは、いつもの自信なさげな彼女ではなくて。なんだかその瞬間、本当の恋人同士になれた気がした。今までの姫乃さんも大好きだったけど、もっと好きになったというか、愛おしいってこういうことなんだなと身を持って教えられたような、そんな気分だ。「ありがとう姫乃さん。すごく甘えたい気分」「いいよ。何でも言って」「ぎゅってして」「えっ?!」とたん、姫乃さんはぼぼっと頬を赤くする。そんな反応は、いつもの恥ずかしがり屋の姫乃さんだなと笑みが漏れる。でも、すっと立ち上がった姫乃さんは俺の横に来ると、優しく包み込むように抱きしめてくれた。ふわっと鼻をくすぐる甘い香りに、とてつもなく安心する。こんなにも、心安らぐ存在だなんて思わなかったな。「さて、仕事行きますか」「なんで。樹くんは今日は休みなさい」普通に叱られてしまった。なんかそれも、嬉しかったりする。俺、やばいかな? 姫乃さんにどっぷり浸かっている気がする。でもまあ……、いいか。幸せってこういうことなのかな。

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    しばらくすると、出汁のいい香りが漂ってくる。俺もベッドを出て、キッチンへ行く。姫乃さんがエプロンをかけて、作業をしていた。「まだ寝てたらいいのに」「美味しそうなにおいがしたから」「じゃあ座って」目の前に、レンゲやらコップやらが準備される。最後に、丼に入った玉子粥がドンッと置かれた。「食べられる分だけでいいよ」「ありがとう、いただきます」レンゲでひとすくいして口に運ぶ。ちょうどいい温かさと優しい出汁の味。温かさがじんわり胃に染み渡っていく。俺が食べる姿を、姫乃さんは隣でニコニコしながらずっと見ていた。「美味い」「ほんと? よかったぁ」久しぶりの姫乃さんの手料理にお腹も心も満たされつつ、完食する。体が回復していくのがわかる。きちんとごちそうさまでしたと手を合わせてから、姫乃さんに向き合った。「姫乃さん、迷惑かけてごめん。ずっといてくれたんだ?」「うん、だって樹くんのこと心配だったから」「熱、うつってないよね?」「大丈夫だよ。……ねえ、樹くん」「うん」「同棲、しよっか?」「え……ゲホッ!」あまりの衝撃に思わずむせ返る。「ちょっと、大丈夫?」と姫乃さんが背をさすってくれた。「同棲?」「うん、同棲。一緒に住もうよ」「いいの?」「いいから言ってるんだよ」だって姫乃さん、あんなに渋っていたのに。

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   13_3 同棲しよ 樹side

    「樹くん、ほら、汗かくから着替えたほうがいいよ」何度も呼ばれるのでぼんやりとした気持ちの中、重い瞼を上げた。目の前に、心配そうな顔をした彼女がいる。「……ん、姫乃さん?」「そうだよ。救急外来行く?」「いや、いい。……寝てれば治る」そうしてまた瞼が落ちそうになったのに、「寝る前に着替えよう」と言われ、甲斐甲斐しく着替えを手伝ってくれる。ありがたいなと思いつつ、体のだるさが勝って、そのままベッドへ沈んだ。ふと目を覚ますと、あたりはだいぶ明るかった。どうやら朝方まで寝てしまっていたらしい。ぐっと体を起こすと、姫乃さんがベッドの縁に頭をもたげて眠っていた。「……姫乃さん」もしかしてずっとついててくれたのだろうか。そういえば、甲斐甲斐しく着替えを手伝ってくれたことを思い出した。どうやらあれは夢ではなかったらしい。「……ん、樹くん……おはよう」「……おはようございます」寝ぼけ眼だった姫乃さんは、突然はっと目を覚ますと、俺のおでこや首元をペタペタ触り始めた。「熱、だいぶ下がったみたいだね」「まあ、今はあんまりだるくないかな」「はぁー、よかったぁ」姫乃さんは大きく息を吐くと、すっと立ち上がる。「何か食べるでしょ? 玉子粥作ってあるから、温めてくるね」そう言って、パタパタと寝室を出ていった。

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   13_2 同棲しよ 樹side

    「せっかく同じ時間に帰ったんだし、夕飯一緒に食べる?」そう提案してくれたのに、俺は断った。夜になると体調が思わしくない。夕飯を作る気力もないし、かといって姫乃さんに作ってもらうのも姫乃さんに負担をかけてしまいそうで嫌だ。帰ったらすぐに寝よう。本当に、今日はしんどい。もし風邪を引いているのなら姫乃さんにうつしてしまったら大変だ。と、思考をぐるぐる巡らせていると、姫乃さんが「ねえ」と覗き込んでくる。「……なんか、樹くん熱いね?」「そう?」「ちょっと顔も赤いよ」「……大丈夫だよ」「熱があるんじゃない?」そう言いながら姫乃さんの手が俺の首に触れた。ひんやりして気持ちがいい。ということは、やはり俺は熱があるのかもしれない。「やっぱりご飯作ろうか。つらいでしょ」「大丈夫、寝てれば治るから。……じゃあまた」歩く手を挙げて姫乃さんと別れ、階段を上がる。やばい、息が切れそうなくらいしんどい。帰ったら寝よう、そうするしかない。玄関を入ってそのままベッドへ直行する。倒れ込むようにベッドへ横になると、急に熱が上がった気がした。たぶん、気が抜けたのだろう。そのまますぐに意識を手放してしまった。「……樹くん、……樹くん」姫乃さんの可愛い声が聞こえる。夢の中にまで姫乃さんが出てくるなんて、得した気分だ。

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    ここ最近ずっと、体調が思わしくないと思っていた。それでも寝て起きれば仕事に行けるくらいの元気はあるし、まあ大丈夫だろうとだましだまし仕事をしていた。ちょうど忙しくもあったから休むわけにもいかないし、仕事に集中していればどうにでもなったのだ。姫乃さんと食べていた夕飯も、別々になった。俺の忙しさに姫乃さんを付き合わせるわけにはいかないし、姫乃さんも忙しそうだったから負担をかけたくないと思ったのだ。一緒に出勤しているから、朝だけはかろうじて顔を見ることが出来た。綺麗で可愛い姫乃さんは、「おはよう」とにっこり微笑む。その顔を見るだけで、一日頑張れる気がした。仕事中は全く関わらない。姫乃さんも業務内容が変わり、責任ある立場に就いたみたいだ。頑張っている姫乃さんに負けないように、俺も新しいプロジェクト業務をこなす日々だった。そんなある日、帰りの最寄り駅でバッタリ姫乃さんと出会った。「樹くん!」「姫乃さんも同じ電車だったんだ」「ね、びっくり」「一緒に帰りましょう」姫乃さんと手を繋ぐと、姫乃さんは嬉しそうにふわっと笑う。でも、絶対に俺の方が嬉しいと感じている。毎朝顔を合わせているのに、帰りに会えるのがこんなにも嬉しいだなんて。それに、久しぶりに姫乃さんに触れた気がする。柔らかな手が心地良い。

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   12_5 すれ違い 姫乃side

    側に寄ると、呼吸が荒いのがわかる。やっぱり熱があるみたいだ。仕事から帰ってきたときのまま、ワイシャツで寝ていた。「樹くん、ほら、汗かくから着替えたほうがいいよ」「……ん、姫乃さん?」「そうだよ。救急外来行く?」「いや、いい。……寝てれば治る」そんな事を言いつつも、樹くんはしんどそうな声を出す。濡れたタオルで体を拭いて、楽なスウェットに着替えさせた。熱冷ましのシートを貼って、ベッドへ寝かす。もし途中で起きたら食べられるようにと玉子粥も作っておいた。定期的に樹くんの様子を見つつ、私も適当に夕飯を掻き込む。心配だから、今日はこのままお泊りをしようかな。しんと静まり返る部屋。樹くんは起きてこない。それでも、樹くんを1人にするという選択肢は持ち合わせていなかった。こんな時に考えてしまう。いや、こんな時だからこそだろうか。樹くんの提案通り同棲していたらよかったのかもしれない。そうしたら、もっと樹くんの不調に気付いてあげられていたかもしれないのに。もっといろんなこと、樹くんにしてあげられるのに。「……同棲か」もちろん同棲に憧れはあった。でも最近の私は、樹くんという素敵な彼氏ができたことに満足してしまって、それ以上のことが起きると頭がキャパオーバーになってしまっていたのだ。考えが改めさせられる出来事に止まっていた脳が動き出す。私はもっとちゃんと、樹くんと向き合ったほうがいい。

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